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スタートアップの残業し放題は危険! 社労士が勧める回避策

2018.04.25 Wed

人事

スタートアップの残業リスク

目次

著者:東京人事労務ファクトリー 所長 社会保険労務士 山本多聞

スタートアップの最大武器は「スピード」だと言われることもあるように、まずは企業が生存するためにも限界まで働く、という人もいると思います。経営陣しかいない創業当初は仕方ない場面があるかもしれませんが、やがて成長フェーズに入り、社員を何人も雇い入れるようになると、いつまでもこれまでの経営陣と同じ働き方を求めるわけにもいかなくなります。

残業が無尽蔵に発生する状況は、残業代の支払いリスクに加えて、従業員のメンタル管理・体調管理や離職リスク・新規採用などに影響を及ぼします。

これらリスクを避けるためには何に気を付けるべきか、残業トラブルの代表的な事例を挙げて、会社側の対応のポイントと対応策についてご紹介したいと思います。

スタートアップの残業トラブルで多いのは、以下のトラブルです。

  1. 退職した創業メンバーから突然、残業代を請求された
  2. 定額で給与を支給していた従業員から、残業代は出ないのかと言われた
  3. 労働基準監督署から労働時間を短縮するよう是正勧告を受けた

それでは、それぞれの残業トラブルごとに紹介します。

1. 退職した創業メンバーから突然、残業代を請求された

事例

あるキュレーションメディアを運営するX社では、退職した創業メンバーから、会社に対し約1年分(創業から退職まで)残業代の請求を行う旨の書面が届きました。創業メンバーは登記上の役員ではありませんでしたが、もともと大学時代からの友人でもあり、役員と同等の立場として一緒に働いてもらっていました。まずは当人と連絡を取ろうと思うのですが、どのようなスタンスで対応したらよいでしょうか。

対応のポイント

  • スタートアップの段階から、役員と労働者の線引きを行う。
  • 労働者とは、労働契約書を交わし労働条件の取り決めを行う。
  • 労働者に対しては、原則として残業代の支払いが必要となる。

対応策

創業メンバーであっても労働基準法上の労働者となると、労働時間による賃金計算の対象となり、残業があれば残業代を支払わなければなりません。逆に、役員であれば労働基準法の適用とはならず、労働時間による賃金計算を行わず、残業代の支払いは必要ないことになります。そのため、まず役員と労働者の線引きを行わなければなりません。

おおざっぱに言うと登記簿に名前が載る立場のメンバーは役員となり、それ以外のメンバーは労働者となります。ただし、従業員兼務役員(取締役営業部長)や執行役員などの場合は、役員としての立場と労働者としての立場を比較し、よりふさわしい方の立場によります(不明の場合は専門家にお尋ねください)。

窮屈と感じられるかもしれませんが、労働者であれば、労働契約書により労働条件の取り決めを行い、その範囲で仕事をしてもらうことになります。労働時間が所定の時間を超えた場合には、当然、残業代を支払わねばなりません。

スタートアップの段階ではぎりぎりの資金繰りで運営しなければならない場合が多く、ともに仕事をするメンバーに契約通りの待遇を保証することが難しく、ある意味、メンバーの「善意」によって当座をしのぐような状況は少なくありません。また、本来は良いことなのですが、メンバーの結束が固く、契約や待遇をなあなあにしてしまう場合も多くあります。

しかし、本来ならば、メンバーに対して契約通りの待遇を行う必要があるのは当然でして、法律的な「けじめ」は早い段階からつけておかれることをお勧めします。

 

2. 定額で給与を支給していた従業員から、残業代は出ないのかと言われた

事例

あるVR関連のコンテンツ制作を行うX社では、会社が2期目に入り、はじめて採用した従業員から「残業代は出ないのか」という質問が上がってきました。人手不足の折、採用時の説明が不十分だったこともありますが、まだまだ資金繰りに余裕のない中、もう少し我慢してほしいといった説明は可能なものでしょうか。

対応のポイント

  • 働いた時間を把握し、それに応じ、賃金を支払わなければならない。
  • あらかじめ労働契約に定めがあれば、みなし残業の適用が可能。
  • 企画職または専門職であれば、裁量労働制の適用も考えられる。

対応策

スタートアップの段階では、経営者側も労働者側も労働時間に対して報酬を決定するという感覚が薄く、成果に対しての報酬、あるいはストックオプションなど出世払い的な報酬の支払い方をとることがしばしばあります。

確かに、経営資源に乏しいスタートアップの段階で、労働時間によって報酬を支払うというのはナンセンスともいえますが、労働基準法がある以上、労働者となると労働基準法の定めにより、タイムカードや出勤簿などで労働時間を把握し、その分の報酬を支払わねばならず、残業があれば当然、残業代を支払う必要が出てきます。

本来受け取る権利のある残業代を我慢するとなると、私的に債権を放棄するといったお話になってきますが、あらかじめこの債権を放棄することはできませんし、当然強制することもできません。

発想の転換と言いましょうか、あらかじめ、一定時間の残業を前提とした労働契約を結んでいれば(みなし残業)、実際に行った残業の一部を、みなし残業代でカバーする形をとることは可能です。ただし、残業時間および残業代がみなし残業の範囲を超える場合には、その分の残業代を支払わなければなりません。

あるいは、仕事の内容がシステムエンジニア、システムコンサルタント、ゲームクリエイターなど(IT関連職種の場合)であれば、労働時間の決定を本人にゆだねる旨の労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出て、裁量労働制の対象とし、一日の労働時間をあらかじめ労使協定などで定めた一定の時間とみなすことができる場合があります。

 

3. 労働基準監督署から残業時間を短縮するよう是正勧告を受けた

事例

あるサーバーの構築・運用を行うZ社では、労働基準監督署の調査が入り、平均すると月に100時間を超える残業を少なくとも80時間までに短縮する内容で是正勧告を受けました。3ヶ月という短い期間で対応しなければならないとのことですが、今後のために優先して対応すべきポイントを教えてください。

対応のポイント

  • 月に80時間を超える残業を行わせてはいけない。
  • 月に45時間を超える残業を行わせることができるのは年6回まで。
  • 長時間残業を行う場合には疲労が蓄積しないよう各種措置を講じる。

対応策

某大手広告代理店で起きた、長時間残業を原因とする過労自殺がマスコミなどで大きく取り上げられましたが、月に80時間を超える残業とが過労死のリスクを高めることは周知のところでして、万が一のことがあった場合には、会社が責任を追及されることになるため、そもそも80時間を超える残業を行わせるべきではありません。

労働基準法の定めにより、残業を行わせるには、従業員代表との36協定の締結および労働基準監督署への届け出が前提となります。しかし、36協定をもってしても通常は月に45時間までの残業が上限であり、それを超える残業については、特別の条項を設けた場合に限り年6回までとされています。

やむなく長時間の残業を行う場合には、労働時間の短縮や最近話題となっている勤務間インターバル(終業から翌日の始業までの間に一定の時間を置く)などの措置を講じ、従業員に疲労が蓄積しないようにしなければなりません。

また、適宜健康診断および医師などによる面接指導を実施するようにし、本人の健康状態を把握し、疲労の蓄積が見られる場合には、業務上の負荷ないし労働時間を短縮するため、具体的な対策を講じる必要があります。

まとめ

スタートアップの段階では残業などかまっていられない、というお話もよく聞かれますが、実は、一度残業トラブルが起きてしまうと会社に数百万円(未払い残業代の場合)から一億円を超える(過労死の場合)コストがかかってしまい、とても事業どころでなくなることもあり、早い段階から対処しておかなければなりません。

一気にすべての問題に対処することは難しいと思います。まずは、労働基準法で設置することが義務付けられている労働者名簿(労働契約書)、出勤簿、賃金台帳を整備するところからスタートされることをお勧めします。

いずれにしても、会社の規模が大きくなるにつれて出てくる問題ですので、ぜひ、早い段階から残業の問題に取り組んでいただき、他のスタートアップに差をつけていただければ幸いです!

 

自社で対応しきれない場合は

会社側での対応策をご紹介しましたが、対応しきれない場合は、東京人事労務ファクトリーまでお気軽にご相談ください。

お問い合わせフォーム

 

著者:東京人事労務ファクトリー 所長 社会保険労務士 山本多聞
1978年生まれ。24歳の時に「東京人事労務ファクトリー」を立ち上げて以来、渋谷駅近くに拠点を置き、スタートアップ企業を中心に年間数十社の労働社会保険手続きや労務問題の解決、サポートを実施しています。50名以下の企業規模が多い一方で、IPO時の規程整備やM&A時の労務監査なども手掛けております。近年はWebメディアを通じた執筆・啓蒙活動にも力を入れています。

 

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